ソウバスの起源と未来。 児島の帆布と縫製技術を世界へ
帆布の可能性を切り拓く、児島発ブランド「SEUVAS(ソウバス)」
岡山県倉敷市の児島といえば世界的に有名なデニムの産地。というのは言わずもがなだが、その陰にひっそりと受け継がれてきた別の伝統産業がある。それが「帆布」だ。船の帆という連想から想像されるように、この丈夫な帆布は児島の地で100年以上にわたり織り継がれてきた歴史ある素材である。
米作が難しい児島は明治時代以降、綿花栽培が本格化。紡績、織物と全工程を手掛けるまでに成長し、着物、学生服といった伝統ある分野を支えるとともに、世界のデニム市場でも25%のシェアを誇る国内有数の産地へと変貌を遂げた。そんな児島の “隠れた名産” として今なお脈々と受け継がれているのが帆布である。
倉敷産帆布の起源は遥か昔、古代エジプトにまで遡る。船の帆として使われたことが始まりで、日本へは織田信長の帆船に初めて採用された。何本もの綿糸を撚り合わせ丈夫に織り上げた帆布は、通気性と耐久性に優れ、経年変化で味わいを増すという特長がある。
こうした帆布文化は江戸時代に全国へと広まり、綿花栽培が盛んだった児島が日本一の生産地として発展。撚糸技術を磨き、現在も国内シェアの7割を誇っている。SEUVASが受け継ぐ児島の帆布文化は、そんな立派なルーツを持つ伝統的な素材なのである。
そして驚くべきは、100年超の歴史があるにもかかわらず、未開拓の可能性がまだまだ秘められている点だ。その代表例が「ファッション」への応用である。服地として帆布が用いられた例はこれまでほぼ皆無に等しい。こうした状況下、新たな可能性を感じ取ったのがSEUVASを立ち上げた明石である。
明石は、OEM生産の経験を活かし、服づくりにお客様との距離を近づけたい思いからSEUVASの立ち上げを決意。130年の歴史を誇る倉敷産帆布と自社の縫製技術の融合で、これまでにない斬新な価値を生み出したかったと振り返る。世界的な岡山デニムとは一線を画し、服作りに不向きとされてきた帆布を可能性の布地として選んだことが、SEUVAS誕生の原点である。
ブランド立ち上げにあたり、在来の帆布メーカーである倉敷帆布とタッグを組み、服地に向けて洗濯可能な帆布を共同開発。そして2017年、明石の構想が「SEUVAS(ソウバス)」として結実したのである。
こうして児島デニムの裏側で脈打ってきた帆布は、100年来揺るぎない固定イメージを打ち破り、斬新で革新的なファッションアイテムへと生まれ変わった。SEUVASに込められた思いは、単なる服づくりを超えて、帆布を通じた日本の職人技と地場産業をアピールする使命でさえある。
後編